桜ふたたび 後編
「もうおわかりですろう。それのたどり着くべきちょころは坂本さんじゃない」
和やかさをたたえていた老師の眼が、不意にかっと見開かれた。
「おまさんの幸せを祈った母御の思いも、それを伝えようとするこの男の気持ちも、決して無下にしてはならん」
厳かな声が辺りの空気を震わせた。老師の背後に、観世音菩薩のアルカイックな微笑みが、まるで語りかけてくるかのように揺れている。
ジェイは目を瞑りカメオを握りしめた。そこに残された想いが胸に伝わり染みてゆく。
己の身の程を知り、息子の遠い将来を考えて、強い自制心で子を託した。確かに愛はあったのだ。
ジェイは、ようやく瞼を開くと、そっとカメオを袱紗の上に戻した。
「ありがとうございます」
ニャアと満足気な声に顔をあげたジェイは、思わず苦笑を浮かべた。
隣で三つ指をついてお辞儀をしている澪の頬が、濡れている。
「また、泣く」
「もらい泣き」
そう言って、澪は嬉しそうに微笑む。ここにも、愛はある。
【第三部 了】
和やかさをたたえていた老師の眼が、不意にかっと見開かれた。
「おまさんの幸せを祈った母御の思いも、それを伝えようとするこの男の気持ちも、決して無下にしてはならん」
厳かな声が辺りの空気を震わせた。老師の背後に、観世音菩薩のアルカイックな微笑みが、まるで語りかけてくるかのように揺れている。
ジェイは目を瞑りカメオを握りしめた。そこに残された想いが胸に伝わり染みてゆく。
己の身の程を知り、息子の遠い将来を考えて、強い自制心で子を託した。確かに愛はあったのだ。
ジェイは、ようやく瞼を開くと、そっとカメオを袱紗の上に戻した。
「ありがとうございます」
ニャアと満足気な声に顔をあげたジェイは、思わず苦笑を浮かべた。
隣で三つ指をついてお辞儀をしている澪の頬が、濡れている。
「また、泣く」
「もらい泣き」
そう言って、澪は嬉しそうに微笑む。ここにも、愛はある。
【第三部 了】