桜ふたたび 後編
そうして一週間。

新品のシステムキッチンから室内を見渡して、澪はほとほと呆れたように嫌々をした。

目の前に本欅のダイニングテーブル、壁には漆塗りのキャビネット、リビングの壁際に超大型テレビがあって、向かい合うように流麗なコンポーネントソファー、窓際には革貼りのカウチ、照明もいちいち凝っている。

確かにジェイの好みではある。モダンでシンプルでスタイリッシュ。そしてそこはかとなく漂う高級感。

柏木から紹介されたインテリアコーディネータに、質素にとお願いしたはずなのに、調理器具からインテリア雑貨に至るまで、これではまるでモデルルームだ。

打ち合せのとき、澪に任せると公言したジェイが、何が気に障ったのか横から皮肉を挟んだものだから、相手もちょっと意地になって、ほんとうに一週間で完璧に大変身させてしまった。

でも、何人家族なのかとツっ込みたくなるほど巨大な冷蔵庫も、一流テーブルウエアが陳列されたダイニングボードも、最新式家電製品の数々も、一度も使用された形跡がない。

だからハウスメイドを雇うことを進言したのに、案の定、洗濯物はクローゼットに山積みされ、ゴミ箱は満杯状態、お風呂は使いっぱなし、ベッドは乱れたまま。エアコンも消し忘れていた。

やっぱり彼一人ではムリかなとひとりごちて、気づいたように、澪は洗い物の手を止めた。

──これは罠?

不自由な生活をしてみたり、部屋を荒れ放題にして生活能力0をアピールしてみたり、絶対にわざとやっている。情に訴えて、巧妙に仕掛けた霞網に追い込もうという魂胆なのだ。
危うく引っかかるところだった。

澪は手を拭って、エプロンのポケットを探った。

──やっぱり、今夜、返そう。
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