桜ふたたび 後編
ジェイがサーラに追いついたのは、レストランからそう離れていない街角の花屋の前だった。

白い霧が立ちこめている。陽射しのあるうちは春を思わせる陽気だったが、さすがに夜半は冷える。ぼんやりとした街灯の下で、シフォンワンピースのサーラは寒そうな肩を虚しく落として歩いていた。
まだまだパリは宵の口。肩を抱いた恋人たちが、哀れむような目つきで振り返っている。

ジェイはサーラの背後からミンクファーのコートをさし掛けた。

《体は大切にしてください》

サーラは一瞬凍ったように足を止め、俯いたまま震える指を口元にやった。
少女のような仕草、実際、彼女はまだ子どもだ。口を拭うことも瞞着することもできない。

ジェイは車道に顔を向けた。

《車を拾いましょう。一人で帰れますね?》

《なぜ……》

サーラが呟くように言った。

ジェイはそれには答えず、目の前のタクシー乗り場へ向かった。サーラは動かない。ジェイは構わず車のドアを開け、サーラを待った。

ようやく歩き出したサーラは、ドアの前で立ち止まり、足許を見つめたまま、声を震わせ訊ねた。

《なぜ、何も仰らないのです?》

自分自身を追いつめるような口調だった。

ジェイは車の中を覗き込むような格好で、運転手に行き先を告げた。

《なぜ何も仰らないのです!》

縋るような目を上げて、サーラは繰り返した。

ジェイは低く溜息をつくと、言った。

《私には、あなたを責める資格はありません。それができるのは、あなたの良心と、新しい生命だ》

打ちのめされたように立ち竦む背を押して、ジェイは車が走り出すのも待たずに身を翻した。
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