桜ふたたび 後編
あの夜、リチャードは震えながらサーラを抱きしめキスをした。何度も何度もたどたどしく、目に涙まで溜めて、真摯に愛の言葉を繰り返した。
サーラも同じ想いだと知った彼は、祖国には帰らなかった。

はじめて結ばれたとき、思いも寄らない彼の激しさ逞しさに愛されていることを実感した。彼の部屋の窓から見えるセーヌ川に架かる橋の上に、小さな青い月が昇っていた……。

サーラはキッと顔を上げ、運転手に向かって告げた。

《 Cour st-Emirionへ》

運転手が驚いた顔でバックミラーを覗き込んだ。

《Cour st-Emirion ですか?》

運転手は念を押すように復唱すると、東に向かっていた進路を西へと向けた。

ルーブルの明かりが遠ざかる。もう迷わなかった。愛する男の元へ、彼女の心は向かっていた。
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