桜ふたたび 後編
「まあ、素敵ぃ!」

と、受け取った花かごを抱く萌愛は、まるで花の妖精。
相変わらずのフリフリファッションだけど、最近、運転免許を取得して、自ら高級外車のハンドルを握って通ってくる。

澪がエコ・ド・ヴィヴレに入校してすでに三つの季節が過ぎた。
優子と董子は三月に卒業して、優子はフリーアナウンサーとして、董子はオーベルジュのオーナーとして活躍している。

茉莉花は、結婚式のあと意気揚々と復学したけれど、澪が流産という哀しいできごとに休んでいる間に、退校してしまっていた。
澪の過去のスキャンダルを暴いたことで、かえって自身の不名誉となったようだ。
萌愛たちにとって澪は、〝ハリウッドスターに勝利して、セレブリティとの結婚を手に入れた〞アイコンだと言うのだから、ハイソサエティ(を目指す女性)のモラルはちょっと理解できない。

一番やる気のなさそうだった萌愛だけが、ディプロマクラスへのステップアップを選択した。

澪はと言えば、当初からジェイによって、ディプロマクラスとさらに上、国際儀礼を学ぶプロトコールクラスまでの契約が済んでいて、曜日は変わってもマダムのティータイムを含めて週三回、さらに葵の英会話レッスン+ときおり涼子も加わったフランス語講座とファッション指導が週二回、その他にもマダム主催のパーティーのお手伝いやヨーロッパ修学旅行などなど、目が回りそうな毎日を過ごしている。

それでも近頃は、サロンで学ぶことが楽しいし、慣れなのか、人交わりをそれほどおそろしく思うこともなくなった。

──ジェイ、わたしもがんばってます。

澪は浅葱色の空に向かって呟いた。
彼を信じて待つことが、彼を守ることだと、自分に言い聞かせて。
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