桜ふたたび 後編
澪はブルスケッタと冷えたビールをローテーブルに出しながら、申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい。明日、お昼の飛行機で帰るから……」
ジェイはグラスを取り損ねた。
「なぜ?」
「お休みをもらえなくて……」
アルバイト先のホテルは夏休みの書き入れ時。先週、連休を取ったばかりで、そう度々休みを言い出せない。
それに、ここへ通う交通費のためにも、収入が減るのは痛い。
今日のように、休日前の最終便に飛び乗って翌日の夕方戻れば休まずに済む。
問題は──。
「澪」
澪はギクリとした。声色が低い。
膝立ちのまま恐る恐る目を上げると、瞳の色がやはり濃くなっていた。
「言ったはずだ。澪がいるところが私の家だと」
確かに、プロポーズのときにそう言った。
〈私はこれからも飛び回っているけれど、澪がいるところが私の家だ〉と。
「だから、ここを買った。インテリアも揃えた。私が毎晩、暑い部屋へ帰ってくるのは、ひとりで眠るためではない。いつまで私にこんな生活を強いるつもり?」
澪はへなへなと床に尻を落とし、
「……ごめんなさい……」
「それで?」
謝ってあとは逃げてすませるつもりかと視線で咎められ、澪は肩をすくめた。
「ごめんなさい。明日、お昼の飛行機で帰るから……」
ジェイはグラスを取り損ねた。
「なぜ?」
「お休みをもらえなくて……」
アルバイト先のホテルは夏休みの書き入れ時。先週、連休を取ったばかりで、そう度々休みを言い出せない。
それに、ここへ通う交通費のためにも、収入が減るのは痛い。
今日のように、休日前の最終便に飛び乗って翌日の夕方戻れば休まずに済む。
問題は──。
「澪」
澪はギクリとした。声色が低い。
膝立ちのまま恐る恐る目を上げると、瞳の色がやはり濃くなっていた。
「言ったはずだ。澪がいるところが私の家だと」
確かに、プロポーズのときにそう言った。
〈私はこれからも飛び回っているけれど、澪がいるところが私の家だ〉と。
「だから、ここを買った。インテリアも揃えた。私が毎晩、暑い部屋へ帰ってくるのは、ひとりで眠るためではない。いつまで私にこんな生活を強いるつもり?」
澪はへなへなと床に尻を落とし、
「……ごめんなさい……」
「それで?」
謝ってあとは逃げてすませるつもりかと視線で咎められ、澪は肩をすくめた。