桜ふたたび 後編
Ⅸ 訣別のとき

1、陥穽

インターホンのモニターに、少しうつむき加減のストレートロングが映し出されたとき、澪は悠斗がふざけて女装したのかと思った。

ややあって、相手が睨むように上げた目に、澪は直感して目を見開いた。
二度と会うことはないと思っていた。そのときはきっと、父の葬儀の席だろうと思っていた。

気づくと、リビングのソファーで、彼女と相対していた。
客を招き入れたことも珈琲を煎れたことも記憶が飛んでいた。

互いに名乗ることもなく、見事な沈黙がしばらく続き、澪が恐る恐る相手の顔を確かめようとのぞき見たとき、向こうも同じ目をして視線が合った。
含羞の色を浮かべてギクシャクと苦笑いする仕草も同じ。視線を流すように横に外して、感じ入ったように息をつくのも同じ。
やはり姉妹なのだと何か不思議な心持ちになる。

「突然、お邪魔してすみません」

ようやく悠璃が、セリフを棒読みするように口を開いた。

170㎝近い長身はきっと父親に似たのだろう。スラリとした体型は母親譲りだろうか。
窓の外の初夏の青空に似た水色のシャツに白のパンツという、シンプルだけど上品見えする着こなし、脚を斜めに揃え手を膝に重ねて座る姿勢に、軽やかな育ちの良さが感じられた。

「ここ、お父さんから聞いたんですか?」

昨秋の訣別以来、実家とは絶縁状態だけれど、迷いに迷って出した年賀状に住所は記していた。春に出張のついでと訪ねてきた悠斗も、それを頼りにしたと言っていた。

悠璃は少し迷って、こくりと頷いた。

「覚えているかしら? 昔、一度会ったことがあるんですよ」

「覚えていません」

悠璃は勝ち気そうな口調できっぱりと言った。

国立の家を訪ねたとき、彼女はまだ幼児だったから、覚えていなくても当然か。
かえって母親同士の修羅場を記憶していなくてよかった。
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