桜ふたたび 後編
澪は項垂れたまま顔が上げられなかった。

ハリウッド女優のクリスティーナ・ベッティが、フィアンセの裏切りに自殺未遂したと報じる記事。SNSで原因が澪だと特定され、澪は京都からもジェイからも逃げ出した。

悠璃はやっぱりと、呆れたような恨みがましそうな溜息をついた。それから少し考えるような間があって、独り言のように言った。

「でも、どうしても納得できないんだなぁ」

やはり自分は疫病神なのだ。妹がせっかく掴んだ幸せを壊してしまった。
謝っても取り返しがつかないことはわかっている。それでも前のめりに腰を浮かすのを、悠璃に両手で止められた。

「違いますよ。あなたを責めてるんじゃありません」

時代錯誤な行動に呆れたのか、年長者の土下座という居たたまれない光景を見ずに済んでほっとしたのか、悠璃は冷や汗を拭うように額を手やって、ふうっと息をついた。
それから、流れを変えるように窓外に顔を向けて、

「だって変だと思いませんか?」

澪へ顔を戻し、

「わたしたち、苗字も違うし、何の接点もない。その写真を見ても、誰? って感じだったもの。戸籍を調べればあなたに辿り着くのかもしれないけど、その記事には結びつかない。だいたい、彼って仕事ができるタイプじゃないし英会話もろくにできないのに、いきなり出世コースのニューヨーク勤務なんて。いくら外資系に買収されたからって、おかしすぎますよ」

澪は引っかかった。何かとてつもなく大きな影が、頭上に覆い被さったような気がした。

「心当たりがあるんですね?」

悠璃は謎解きのヒントを見つけたように、体を乗り出して再び探るような目をした。

澪は困惑の顔を上げた。

澪如きにこんな遠回しな嫌がらせをするとは思えないけれど、柏木がブラジル転勤になったときから、違和感を覚えていた。
二週間前には、悠斗たちが計画していたサッカーライブストーミングのイベントが、突然アメリカの中継会社から配信を断られ、中止に追い込まれた。
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