桜ふたたび 後編
澪は何度か視線を上げたり下げたり、言おうか言うまいか迷って、それからようやく覚悟を決め、一言一句考えるように言った。

「その、週刊誌に載っている、ジャンルカ・アルフレックスとわたしは、結婚を約束しています」

悠璃は、そんな夢みたいな話と開きかけた唇を、頭から打ち消すのも気の毒かと自制して結び、その代わりに、いまさらながら室内を見渡して、えーっと言う顔をした。
どう考えても庶民に手が出せる代物ではない。これまで周りが見えないくらい気が張っていたのだ。

「でも、彼のご家族は反対されていて……」

悠璃はあんぐりと口を開けたまま、しばらく澪の顔を見つめていた。

「じゃあ、これって……?」

澪は自信なく小首を傾げた。

「わかりません。あなたの言うとおり、わたしたちには接点がないし、こんな回りくどいこと、するでしょうか?」

「でも効果はありましたよね? 自分のせいで妹の結婚がだめになったと知ったら、あなたは自分を責める。今みたいに」

なぜか悠璃は快活に言う。

「すみません……」

澪はじっと頭を垂れた。どんな非難を浴びせられても当然だ。どうにかして彼女の結婚を取り戻したいけれど、ジェイとの連絡を絶たれた澪には術がない。

「ああ、すっきりした!」

思いも寄らない明るい声に、澪は恐る恐る顔を上げた。
< 196 / 271 >

この作品をシェア

pagetop