桜ふたたび 後編
「そんな深刻な顔をしないでください。わたしはパパもママも大好きだし、ふたりの子どもとして生まれたことに感謝してますから」

澪ははっとした。
自分はこんなに屈託なく両親を好きだと思ったことがあっただろうか。
嫌われるのが怖かった。叩かれるのが怖かった。要らないと言われるのが怖かった。従順にしていれば捨てられることはないと、感情に蓋をして真っ直ぐに彼らと向き合うことをしなかった。

愛されなかったのではなく、愛さなかったのは澪の方だ。

「それじゃ、お邪魔しました」

さっと立ち上がった悠璃の顔は、来たときとは打って変わって明るい。

「もう?」

「はい、友達、待たせてあるんで」

残念そうに見送りに立った澪に、悠璃は玄関で背を向けて靴を履きながら、

「わたし、ほんとは覚えてます。お人形みたいにきれいで優しいお姉さんのこと」

そして振り返り、今日一番の爽やかな笑顔で言った。

「こんなことで負けないでくださいね。幸せになってください」

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