桜ふたたび 後編
「引っ越しは?」

「それが……あの……」

「ここが気に入らない? それならすぐに別を探す」

「と、とんでもない!」

澪は焦って首を振った。
ジェイのことだから冗談ではすまされない。

「みんなによくしてもらっているから、なかなか言い出しにくくて……」

理由にもならないと、ジェイの瞳が言っていた。

「私は澪にプロポーズして、OKをもらったはずだけど、私の勘違いなのか?」

澪はギョッと固まった。ジェイの瞳が鋭く光った。

「こわくなった?」

澪は即座に、しかし自信なく首を振った。

「何が不足なのかな?」

「不足なんて。わたしは、こうしてジェイといられるだけで満足だから」

言ってから、あれ? と、澪はジェイを二度見した。
当然ここは感激の「Love me do」が返ってくるものだとばかり。

ジェイは前屈みになって膝に両肘つき、組んだ手の上に顎を乗せ、ジッと澪を見つめている。

「私は満足しない。澪と結婚したい」

「どうして?」

ジェイは意外そうに顎を上げた。
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