桜ふたたび 後編
防火扉のように会議室の扉が閉じられ、室内は静まりかえった。

フェディーは腕組みをしたまま目を閉じて微動だにせず、マティーは能面のような顔で視線を下げていた。立ったままじっとジェイを睨み付けたエルモの顔だけが異様に赤い。

『話し合おう』

エルモが呻くように切り出した。

『無意味です。速やかに株主に対する責務を果たしてください』

『身内を告発するような恥さらしをして、よくも平然としていられるな』

『すでにアナリストが嗅ぎ付けています。解任という汚名を着る前に、チャンスを作ったつもりですが。ここで後手に回れば、あなたのポジションも危なくなりますよ。むろん、マティーも』

エルモは急に無表情になった。体内の怒りのエネルギーは一層激しくなっているに違いない。目が真っ赤に充血して、憎しみをジェイの唇に突き刺している。

『まあいいだろう』

フェディーは独り言のように言うと、掌を下へ向けてエルモに着席を命じ、アイスグレーの瞳をジェイに向けた。

『私もリタイアにはいい歳だ。会長はエルに譲ろう』

『そうですね』

マティーは当然のごとく賛同する。AXは創業家であるアルフレックスのものだと、フェディーもマティーも信じて止まない。

『それでは責任をとったことになりません』

『父親を陥れて、兄を蹴落としてまで、トップになりたいのか!』

上滑りで短絡的な兄に、ジェイは憐憫しか感じない。
彼が澪を襲撃などしなければ、ここまで彼らを追い込みはしなかったのだ。
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