桜ふたたび 後編
『私は地位や名誉を欲しているわけではありません』

『それなら何が目的だ? ああ?』

『自由です』

『AXを辞めることが、お前の自由なのか?』

父の問いに、息子は頷いた。

兄は声を荒げ、

『お前に自由になる権利などない! 育ててもらった恩を忘れるな!』

──またそれか。

貶みの言葉で弟の心を凍らせ、アルフレックスに縛りつけたあの夏の日から、兄は少しも成長していない。
つられてつい厭味を返してしまう自分も、まだまだ青いか。

『黄色い猿の息子はどんなに優秀でもル・コント(フランス貴族)にはなれない。マティーに感謝し、死ぬまでアルフレックスに忠義を尽くせ、ですか?』

『ジェイ! お止めなさい!』

マティーの悲鳴に似た声に、一瞬でも救いを感じたのは、やはり迷いを払拭し切れていないのかもしれない。

ジェイはチラリと腕時計を確認した。
予定時刻きっちりに、ノックが響いてドアが開いた。

現れたレオの姿に、エルモは怪訝な顔をしたが、次の瞬間、目を剥いて声を上げた。

『なぜ、お前がいる!』

怒りと狼狽の目をはっとジェイへ向けて、エルモはしまったと顔を歪めた。

『あなたはいつも詰めが甘い』
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