桜ふたたび 後編
「どうして結婚したいんですか? 結婚なんてお互いの人生を束縛するだけのものなのに」

「澪からそんなセリフを聞くとは」

ジェイは笑いかけた顔を納めると、やおら澪の手を取って、宣誓書でも読むように右手を挙げた。

「まず第一に、私は澪を独占したい。私の留守中に、澪が他の男に誘惑されていないか、また逃げ出していないかと、いつも心配なんだ。だから結婚という確かな契約で、澪を私だけのものに縛り付けておきたい。第二に、私は澪に独占されたい。結婚が相手の人生を束縛するものなら、私は澪に縛られたい」

「変です」

「愛は人を異常にさせる」

勝手な論理を大真面目に展開するジェイに、澪は呆れ顔を浮かべた。

「それでも澪が結婚したくないと言うのなら、結婚したくなるようにするだけだ」

どうやって? と問いそうになって、澪は慌てて口を噤んだ。
ジェイは言葉にしたことは必ず実行する。

「澪が望むことなら、何でも叶えてあげると言っただろう? だから、澪は何も心配せず、私を信じてついてきなさい。大丈夫、すべてうまくゆく」

そう言ってジェイはリングにキスをする。結婚を望んだ覚えはないのだけれど。

──とにかく、引っ越しは早い方がいいか。

せめてこの不都合な現状は解消してあげないと。

そう考えて、何だか上手く示談に持ち込まれてしまったような気がしてならない澪だった。
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