桜ふたたび 後編
ジェイは、ホッとして泣き出しそうな澪の頬にキスして、よく辛抱したと目で頷いた。

澪を日本から脱出させて二週間、同じニューヨークにいながら会うことも叶わず、声も聞けず、何の説明もなく過ごす日々は不安だっただろう。
こんな状況でなければ、いつまでも抱きしめていてあげるのに。

『どなたかな?』

『MIO Sakura、 私の婚約者です』

《Taisez-vous‼(黙りなさい!)》

マティーが激しく両手でテーブルを叩いた。

フェディーは眉をひそめ、

『どう言ったお嬢さんだ?』

『お耳に入れるのも穢れになりますよ。父方は地方の不動産会社経営、母方は漁師。父親は中堅電気メーカーの支店営業部係長、どこにでもいる平凡な家庭の育ちです』

フェディーは呆れたように苦笑した。
なるほど妻が反対するのも無理からぬ。ジェイともあろう男が何を血迷っているのか。

『話にならんな』

フェディーは立ち上がった。
マティーは珍しく怒りの色を浮かべた能面を下向けながら、エルモは無駄な足掻きだったなとジェイに皮肉な笑みを向け、それに従う。

『私とお前の進退については、今夜もう一度話し合おう。後で家に来なさい』

『待ってください』

ジェイは出口の前に立ちはだかって、父と対峙した。

『お前にも彼女がアルフレックスに相応しいかどうか判断できるだろう。交際には反対せん。しかし結婚には賛成しかねる』
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