桜ふたたび 後編
窓の外は見事な快晴。嫋々とした清風が、賑やかな声を運んできた。
ギリシャブルーのワンピースのエヴァが、両手を腰に、ベストのセレモニー服姿のシモーネを叱っている。
廻りではメイド服たちが、蒼穹へ向かって小さくなってゆく風船を、頬を緩ませ眩しそうに見上げていた。
エヴァは人が変わったように祝宴のプロデュースにのめり込み、ささやかにという当人たちの希望をまったく無視して、かなり大掛かりなパーティーを計画している模様だ。
澪の結婚にふてくされていたシモーネも、今では率先して母の手伝いに走り回っている。
当初は拝辞していたジェイですら、イタリアーノのお祭り好きは国民性だからと、諦めたように言った。
いずれにせよ、サプライズパーティーはサプライズではなくなっている。
『おめでとう、澪!』
メイド服たちが一斉に澪を振り仰いだ。
中央に大きく両手を振るヒデの笑顔があった。
~o mio babbino care~
いきなり独唱が始まった。
愛する彼と結婚させてくださいと父に願う歌。
ブリリアントな歌声に、ますます磨きがかかったみたい。来年はエリカと日本で凱旋公演を行う予定だ。
──夢が叶ったね、ヒデさん。
ジェノバの旧市街地で迷子になり、ルイーザの店でヒデに助けられたのは二年前の年の暮れ。お礼に再訪した店で、彼の歌を聴いたジェイが、エリカに引き合わせてくれた。
澪の願いをジェイは必ず叶えてくれる。
本当に、こんなに愛されて、こんなに幸せでいいのかしらと、胸がいっぱいになってしまう。
「No,no、メイクが台無し」
ルナが苦笑しながら澪の目尻をハンカチで押さえた。
「それで? 今日もっともハッピーな男は?」
予定なら昨夜のうちにニューヨークから戻るはずだったけれど、トラブルが起きて朝一にフライトが変更になったと、申し訳なさそうに連絡があった。
“バカな男! 遅刻してきたら承知しないから”
ルナの独り言に澪は小さく笑った。兄弟喧嘩がまだ尾を引いている。
一ヶ月前にソマリアから帰国した彼女は、まるで人形遊びのように澪の世話を焼きすぎて、とうとうジェイと口論になった。
ジェイから外出を禁止されていたのに、こっそりルナと出かけていたこともバレていて、それからはインパラというお目付役が常時目を光らせるようになってしまった。
「Oops‼ アレクとシルヴィを空港に迎えに行く約束だった。教会で会いましょう」
ルナは忙しなく部屋を出て行った。これが澪との別れになるとは思いもせずに。
ギリシャブルーのワンピースのエヴァが、両手を腰に、ベストのセレモニー服姿のシモーネを叱っている。
廻りではメイド服たちが、蒼穹へ向かって小さくなってゆく風船を、頬を緩ませ眩しそうに見上げていた。
エヴァは人が変わったように祝宴のプロデュースにのめり込み、ささやかにという当人たちの希望をまったく無視して、かなり大掛かりなパーティーを計画している模様だ。
澪の結婚にふてくされていたシモーネも、今では率先して母の手伝いに走り回っている。
当初は拝辞していたジェイですら、イタリアーノのお祭り好きは国民性だからと、諦めたように言った。
いずれにせよ、サプライズパーティーはサプライズではなくなっている。
『おめでとう、澪!』
メイド服たちが一斉に澪を振り仰いだ。
中央に大きく両手を振るヒデの笑顔があった。
~o mio babbino care~
いきなり独唱が始まった。
愛する彼と結婚させてくださいと父に願う歌。
ブリリアントな歌声に、ますます磨きがかかったみたい。来年はエリカと日本で凱旋公演を行う予定だ。
──夢が叶ったね、ヒデさん。
ジェノバの旧市街地で迷子になり、ルイーザの店でヒデに助けられたのは二年前の年の暮れ。お礼に再訪した店で、彼の歌を聴いたジェイが、エリカに引き合わせてくれた。
澪の願いをジェイは必ず叶えてくれる。
本当に、こんなに愛されて、こんなに幸せでいいのかしらと、胸がいっぱいになってしまう。
「No,no、メイクが台無し」
ルナが苦笑しながら澪の目尻をハンカチで押さえた。
「それで? 今日もっともハッピーな男は?」
予定なら昨夜のうちにニューヨークから戻るはずだったけれど、トラブルが起きて朝一にフライトが変更になったと、申し訳なさそうに連絡があった。
“バカな男! 遅刻してきたら承知しないから”
ルナの独り言に澪は小さく笑った。兄弟喧嘩がまだ尾を引いている。
一ヶ月前にソマリアから帰国した彼女は、まるで人形遊びのように澪の世話を焼きすぎて、とうとうジェイと口論になった。
ジェイから外出を禁止されていたのに、こっそりルナと出かけていたこともバレていて、それからはインパラというお目付役が常時目を光らせるようになってしまった。
「Oops‼ アレクとシルヴィを空港に迎えに行く約束だった。教会で会いましょう」
ルナは忙しなく部屋を出て行った。これが澪との別れになるとは思いもせずに。