桜ふたたび 後編
2、消えた花嫁
挙式開始予定三分前、タクシーから飛び出したジェイを、聖堂の開け放たれた扉の前でルナとアレクが待ち構えている。
ブラックタキシードの胸に白バラと鈴蘭のブートニアをつけた蝶ネクタイの新郎は、照れ笑いを浮かべながら、カフリンクスの角度を修正するふりをして、嫌みの一つも覚悟しつつ、彼らの間をすり抜けようとした。
“間に合っただろう? さあ、始めよう”
“ジェイ!”
ルナに腕を掴まれて、ジェイは怪訝な顔をした。晴の席だというのに、何て辛気くさい顔をしているのだ。
“文句は後で聞く”
“澪がまだなんだ”
アレクが狭い眉間に当惑を浮かべて言った。
屋敷から教会までは車で十分。途中一本道で、渋滞するような箇所もない。
花婿を待たせるのがセオリーだと言っても、遅い。
“連絡は?”
“ファビオは留守だし、運転手とも連絡が取れないのよ。事故でもしてなければいいけど”
“とにかく俺が屋敷へ行ってみる”
“待て、アレク。君が澪と入れ違いになると、testimoni di nozze(立会人)がいなくなる。リンとウィルが家に向かっているから、彼らに探させよう”
言いながら、胸ポケットからスマートフォンを取り出すのを見て、ルナが呆れ顔をした。宣誓の途中で鳴り出しでもしたら、笑いごとではすまない。
ウィルに用件を伝え、続けてかけたファビオへの電話は長くなった。
澪は三十分前に家を出発している。ファビオとマリアたち数名の使用人が車寄せで澪を見送っている。
その十分後にブドウ畑で小火騒ぎが起こり、ファビオはそちらに駆けつけていた。
通報は悪戯だったが、そのためにルナからの問い合わせに迅速に対処できる者が不在になった。
作為を感じる。
ジェイは舌打ちして、再び電話を耳にした。
ブラックタキシードの胸に白バラと鈴蘭のブートニアをつけた蝶ネクタイの新郎は、照れ笑いを浮かべながら、カフリンクスの角度を修正するふりをして、嫌みの一つも覚悟しつつ、彼らの間をすり抜けようとした。
“間に合っただろう? さあ、始めよう”
“ジェイ!”
ルナに腕を掴まれて、ジェイは怪訝な顔をした。晴の席だというのに、何て辛気くさい顔をしているのだ。
“文句は後で聞く”
“澪がまだなんだ”
アレクが狭い眉間に当惑を浮かべて言った。
屋敷から教会までは車で十分。途中一本道で、渋滞するような箇所もない。
花婿を待たせるのがセオリーだと言っても、遅い。
“連絡は?”
“ファビオは留守だし、運転手とも連絡が取れないのよ。事故でもしてなければいいけど”
“とにかく俺が屋敷へ行ってみる”
“待て、アレク。君が澪と入れ違いになると、testimoni di nozze(立会人)がいなくなる。リンとウィルが家に向かっているから、彼らに探させよう”
言いながら、胸ポケットからスマートフォンを取り出すのを見て、ルナが呆れ顔をした。宣誓の途中で鳴り出しでもしたら、笑いごとではすまない。
ウィルに用件を伝え、続けてかけたファビオへの電話は長くなった。
澪は三十分前に家を出発している。ファビオとマリアたち数名の使用人が車寄せで澪を見送っている。
その十分後にブドウ畑で小火騒ぎが起こり、ファビオはそちらに駆けつけていた。
通報は悪戯だったが、そのためにルナからの問い合わせに迅速に対処できる者が不在になった。
作為を感じる。
ジェイは舌打ちして、再び電話を耳にした。