桜ふたたび 後編

参列者は、エスコート役の悠斗、春子となずな。
澪の両親の参列は叶わなかった。
ジェイは説得を試みようとしたが、妹の結婚を壊した娘を祝うのは父の気が咎めるからと、澪が拒んだ。

そして立会人の千世と菜都、その夫たち。
バレリーナのようなドレスに白薔薇の花冠、膝の上に大切そうに花かごを抱いた芽衣は、フラワーガールを務めることになっている。

彼らは三日前に日本を発ち、綾乃の案内でローマ・フィレンチェ観光を堪能して今日ジェノヴァ入りした。

アルフレックス側は、ルナとエヴァ、背筋をぴんと張ったまま緊張しているのはリングボーイを務めるシモーネ、立会人のアレクとシルヴィ、柏木夫妻とひとり息子の翼。

両家の両親の祝福もない、人数的には寂しい結婚式だが、ジェイと澪のこれまでの道程に深く関わる者たちだ。

唯一、悪天候で帰港が遅れた真壁に、澪の花嫁姿を見せられないことが残念だったが、ジェイにとっては、兄事する澪の養父にこの失態を晒さずに済んだ。

「何かあったんですか？　澪は？」

悠斗に問われ、ジェイは気取られぬよう静かに深呼吸をした。

「少し体調を崩したようです。残念ながら本日のセレモニーは中止させていただきます」

「え～」

落胆の声を上げたのは千世だ。

「もう、澪は！　ほんまに緊張しぃなんやから」

彼女のこういう軽率なところが、慎重すぎる澪には救いなのかもしれない。
悠斗やなずなはさもありなんと笑ったが、しかし菜都と春子は騙せない。不安な視線を向けるふたりに、ジェイは爽やかすぎる笑顔を作った。

「澪はもうしばらく休ませますが、家の方でウエディングパーティーを用意していますので、今夜はゆっくりお楽しみください」