桜ふたたび 後編
十五分後、今度は意識を取り戻したアテンダーの事情聴取が始まった。

気丈に一礼し着席したが、顔は血の気を失ったように蒼い。
男でさえろれつの回らない状態だったのだ、期待はできそうにないと、ジェイは窓を背に腕組みしたまま小さく息を吐いた。

『花嫁が車を止めるまで、何か変わったことは?』

綾乃の対面に座ったウィルも、半ば諦めモードなのか、それとも相手が女性だからか、口調が柔らかい。

綾乃は明瞭な口調で思いもかけないことを言った。

『澪のスマートフォンに着信がありました。電話の最中に急に青ざめて、車を止めてと叫ばれたんです』

ジェイは思わずテーブルに駆け寄った。交際範囲の狭い澪に、直接コンタクトできる人物は限られてくる。

『会話の内容は?』

綾乃は無念そうに頭を振った。

治療の成果か、しっかりした応えに、かえってジェイは暗澹とした。
これで確定した。嵌められたのだ。澪はまんまとおびき出された。

『花嫁は車を降りてどうした?』

『プライベート硝子で外の様子はよくわかりませんでした。でも、後ろに白いワンボックスカーが止まっていて、その前で澪が女の両腕を掴んで何か必死に訊ねているようでした。不審に思って車を降りようとしたら、女がこちらに近づいて来て、花嫁がブーケを忘れたから取ってくれと言われて。シートにあったブーケを取ろうとしたとき、突然、感電したようになって』

『女の顔は見たか?』

『つばの広いガルボハットを目深にかぶって、サングラスをかけていましたので……』

『どんなことでもいい。覚えていることはないか?』

綾乃はこめかみを指で押さえ、記憶を絞り出すように言った。

『ハーブ系の香水。クリムソンのタイトワンピースで、ヒップ周りがとても豊かでした。大きな黒薔薇のコサージュが不吉で……』

やはりそこに注目がいったか。諦めたように踵を返したジェイに、綾乃は思い当たったように顔を上げた。

『赤毛』

ジェイは瞳を開いて振り返った。
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