桜ふたたび 後編
トミーが赤毛の女にハニートラップを仕掛けられたのが二年前の秋口。ニューヨークの大規模爆発事件で、ジェイが一時的に東京へ拠点を移し、クローゼの案件が持ち上がった頃だ。

赤毛の女がカールと接触したのはその三ヶ月ほど前。
偶然カールを得たことで奸計を思いついたのか、はじめからカールの能力を知っていて引き入れたのか。

当時ロイズ内ではアブラモビッチが台頭していた。アランはサハ油田乗っ取りで巻き返しを図ったが、ライバルの計略で当局に目をつけられ、かえってミロシュビッチの不興を買った。

ミロシュビッチがサハに奔逸し、ロイズ内の権力争いが本格化したことで、彼が功を焦ったのはわかる。

彼の狙いは、目の上の瘤であるジャンルカ・アルフレックスを第一線から引き摺り下ろし、クローゼ・カイザーを含め偉勲を手にいれることにあったはずだ。

それだけか?
殺人未遂に誘拐、凶悪な動きの陰にはもっと根深い個人的な憎しみを感じる。

いずれにせよ、彼は掴んだのだ。ジェイの最大にして唯一のアキレス腱を。
なぜ、澪の携帯番号を替えさせなかったのか。後悔は尽きない。

『澪はクィーンだ。切り札が生きている限り、私が手出しできないことを知っている』

ジェイとウィルの意見は真っ向から対立した。
ウィルは納得いかない表情で、それでもジェイのために訊ねた。

『人質だと言うのか?』

『近いうちに、向こうからコンタクトしてくる』

キリストを拝してジェイは断言した。自分自身に信じこませるように。
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