桜ふたたび 後編
『どこだ?』

『ブリュッセルだ。女が二名降りたのを、空港の職員が目撃している。一人は東洋人だ。今、付近の宿泊施設をしらみつぶしに洗っている』

『無駄だろうな』

ジェイはにべもなく言った。

『輸送機から足がつくのは織り込み済みだろう。近場のパーキングとレンタカー会社、半径二百マイル以内のガスサービスステーションの防犯カメラを当たってくれ』

『根拠は?』

『密室だから』

ウィルは頷いた。
犯人は、澪が不審を感じる前に体の自由を奪う必要がある。縛するか、薬を使うか。そうなると移動は当然密室の車になる。仲間が待機していた可能性もある。

『それから──』

やや躊躇った口調に、踵を返していたウィルは首だけを回した。

『ジェノヴァ港を出港したヘリポートのある船を調べてくれ』

『船か?』

ウィルは長い顎先を指で摘んだ。
なるほど、ワンボックスカーごと乗り込んで、海上からヘリコプターで移動させる手段もある。

しかしそうなると、捜索は困難になる。ジェイもわかっているのだろう。

『了解』

ウィルはジェイが抱く悪い予感を払拭させるように、快く頷いた。
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