桜ふたたび 後編
一週間経っても澪の行方は掴めなかった。

ブリュッセルで降りた女は、PV撮影だと金で雇われた中国人だった。雇い主はすでに行方しれずで、追ったところで無駄だろう。

ジェイの読み通り、ジェノバ港から大型貨物船が事件の十五分後に出港している。

行き先はモロッコのタンジェ港。
こちらのルートが正解ならば、元CIAのウィルでも、元フランス対外治安総局員のレオでも、元アメリカ空軍特殊部隊のニコでも、澪の行方を追うことは不可能だ。

テーブルのブーケは萎れて、花びらが茶色く変色している。それでもマリアは毎日、殊勝に水を替え続けていた。

窓の外に昼の月が浮かんでいる。
胸騒ぎに、ジェイはポケットの中のリングを掌に握りしめた。

捜していた澪のリングは、彼女の指を離れ、エンゲージリングと共にスーツケースのなかで見つかった。
同じ箱の中には、カメオと一枚の写真も共に収められていた。
十六歳の誕生日に叔母から贈られた生母の写真。丘のパーゴラに埋めて封印したものを、澪と掘り起こしたのだ。

〈一緒に日本へ連れて帰ってあげましょう?〉

挙式のあとふたりして、悠斗たちと日本へ戻ることになっていた。
あの温かな我が家で、仕事に邪魔されることなく、澪の云う平凡な新婚生活を送るはずだった。

〈望めば失う〉

澪の寂しげな声が聞こえたようで、ジェイは頭を振った。
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