桜ふたたび 後編
翌日の夜、アルフレックス邸に小包が届いた。その日ジェイがニューヨークへ戻ったのを見計らっていたかのように。

小包を届けたのはタクシードライバーだった。
プリンチペ駅のタクシー乗り場で、赤毛の女からアルフレックス邸へ届けるように依頼されたと言う。列車に乗り遅れるからと、往復の乗車料金に高額のチップを上乗せしてもらい、運転手とすれば美味しい仕事だ。

ウィルからの報せに翌早朝ジェノバへ帰館したジェイは、小包の中身を手に取る前に、思わず肩を落として額づいた。
送りつけられてきたのは、ウエディングヴェールとグローブ。どちらも赤黒い血で染まっていた。

ウィルは血染めのヴェールを見つめながら言った。

『提出した澪のサンプルとDNA型が一致した。それと、グローブからわずかながら麻酔薬が検出された。澪は負傷している。犯人はそれを君に知らしめるために、わざわざこれを送りつけてきた』

ジェイはソファーで項垂れたまま動かない。ウィルは続けた。

『君を追いつめることが目的だった。しかし反対に墓穴を掘った』

ジェイの顔が上がった。
ウィルはにやりと笑うと、折りたたまれた新聞紙をテーブルに置いた。
梱包の詰め物として使われたものだろう。

ジェイは手にとって開いた。
そして何かに気づいたように、何度か角度を変えて目を凝らした。

『M…E…L』

ウィルが先を読み上げた。

『メルヴィン・マイヤー』

『メル?』

ウィルが大きく頷いた。カールが口にした子どもの名だ。

『その上でサインの練習でもしていたか?』

ウィルはクックッと笑うと、すぐに真顔になった。

『新聞はラ・ヴォワ・デュ・ノール、フランスノール県の地方紙だ。発行日は一週間前。すでにニコが、ノール県内の小学校の名簿を当たっている。どうする? 赤毛の女を捕捉するか?』

ウィルの急く気持ちはわかる。以前すんでの所で逃げられて吠え面をかかされたのだ。今度は逃がすわけに行かない。
しかし、そこに澪が監禁されているとは限らない。確実に澪を保護できなければ、かえって危険だ。
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