桜ふたたび 後編
『今は泳がせて、澪の安全を確認してからにしよう』

ウィルは承知と頷くと、ジェイの顔を覗き込んだ。
決断に迷いがある。無理もない。事件後、彼はろくに睡眠をとっていない。気持ちが張っていなければ、とうに限界を迎えているはずだ。

『あとはこちらで動く。君は少し休んだ方がいい』

『いや、これからパリへ行く』

『パリ?』

ジェイは腕時計を確認しながら、

『鴉を見つけた。エリゼ宮の友人の別邸に逃げ込んでいた』

『まさか会うつもりか?』

ウィルはあからさまに反対を表情にした。

『危険を犯して会っても、奴が素直に手の内を見せるとは思えない』

『届け物はメッセージだ』

と、立ち上がるジェイに、ウィルは胡乱な目を向けた。

『何の?』

『悠長にゲームを楽しんではいられない』
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