桜ふたたび 後編

《何をお捜しですか？》

アランは白々と訊ねる。

《小鳥だ。先日、目を離した隙に盗まれてしまった》

《魔術師と呼ばれるあなただ。失せ物探しはお手のものでしょう？》

《私は魔法使いではない》

《それほどご執心とは、相当な珍鳥のようだ。実は先日、美しい小鳥を捕まえましてね》

抑揚のない低い声。これも彼の戦術で、聞く者はつい傾聴しようと前のめりになる。

ジェイはテーブルに片肘を突き口元を隠すように顎を載せると、目を合わせないアランをまっすぐに見た。

《その鳥はどうしたら手に入る？》

いつも伏せている顔から瞳だけが上がり、眼鏡の上辺から鋭い眼光がジェイを捕らえた。

《ポセイドーンの宝珠を、すべて手放していただければ。勿論、あなたが預かっているご友人の分も》

ジェイはそれには応えずアランの目を見つめた。
氷の女王に見つめられ死を予感した者のように、一瞬アランの瞳に戦慄が走った。
彼は気取られまいと視線を外すと、友好など微塵もない口調で、

《これから私の部屋で一杯やりませんか？　年代物のサンテミリオンがあります。近ごろ屋敷の主人も冷たくなりましてね、まさかのことがないように、あなたからも口添えしていただけるとありがたい。私に何かあれば、小鳥の世話係が何をしでかすかわかりませんから》

ジェイは上体を戻してカップに指を掛け、次に顕れる表情のシグナルを観察するためにあえてゆっくりと言った。