桜ふたたび　後編
アランは大きく舌打ちをすると、スマートフォンを取り出した。
相手はなかなか出ない。
ようやく繋がった電話に、アランは低い声で言った。

《メルはどうしている？》

〈─〉

アランは安堵の息を漏らした。

《ジェイがカールを押さえている。メルの名前を聞き出した。そこがばれるのも時間の問題だ。メルを連れていますぐアパルトマンへ移れ》

電話の向こうで女の高笑いがした。

〈─〉

《それは最後の切り札だ。今は、女には手を出すな》

〈─〉

《死なれるのは拙い》

〈─〉

《女にこう言うんだ。お前が死ねばジェイを殺すとな。何としてでも食事を摂らせろ。拒むようなら、薬を使って眠らせてから点滴を使えと指示するんだ。いいか、絶対に行くなよ。足取りを掴まれる》

〈─〉

アランは電話を切ると、目の前の食事にむしゃぶりついた。腹が減っているというよりは、焦燥が大脳を異常に刺激して、口に食べ物を次々と運ばせている。
一頻り食べて、アランはごくごくと喉を鳴らして水を飲み干した。

《だから用済みは始末しておけと言ったんだ》

と、呟いたアランの声は、車の中のジェイの耳にも入っていた。

──ダメか。

ジェイは盗聴器のイヤホンを外した。

女のところには澪はいない。そのうえ彼女の体調は極めて悪い。せめて監禁場所のエリアさえ特定できればと、頭の中で何度も会話を思い返して推理を試みたが、ヒントは何一つ隠されていなかった。

目の前で鴉が何かを咥えて飛び去った。
ジェイは溜息をついてエンジンをかけた。
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