桜ふたたび 後編
「そげん大きな声をあげんでんよかやろう──」
「わいはぁ……、がんたれ(ろくでなし)ん男んために、世話になった者たちをまた裏切っ気け!」
誠一は激憤のあまり、顔を真っ赤にして目を充血させ、拳をわなわなと震わせている。
あたかも阿像の形相に、澪は顔面蒼白になって胴震いした。子どもの頃に心配をかけて伯父に叱られたことはあっても、こんなに激しい怒りを経験したことがない。
「おとうさん、落ち着きたもんせ。澪は真希ちゃんじゃなかど」
「第一、なんじゃ、そん男は! 挨拶にも来じ、ひとん娘と同棲すっなど、非礼じゃらせんか!」
「だから、澪ちゃんの彼氏さんは外国に住んでいて──」
「わいは黙ってなせ!」
ヘイとなずなは亀のように首を引っ込めた。
「よかか、澪、今後一切、東京へ行っことはおいが許さん。わかったな!」
誠一は口から泡を飛ばして言い捨てると、座椅子を蹴って出てゆく。
次の瞬間には、家が潰れるかと思うほど派手な音を立て、玄関ドアが閉まった。
「さしかぶいに(久しぶりに)見たねぇ、おとうさんの雷」
窓を過ぎる自転車の影を目で追いながら、春子は呆れたように、なぜか少し嬉しそうに、呟いた。
「ごめんなさい、伯母さん」
春子は、いいのよと笑みを浮かべて首を振った。
「そいよりご飯にしもんそ。お腹空いたやろう?」
「でも……」
「だいじょ〜ぶ、びんたを冷やしたや戻ってくっで。ちょっと言いすぎてん、本人もわかっちょるんじゃ」
春子は澪の背中を叩いて、やれやれと暖簾を上げて台所へ戻ってゆく。
そしてまた茶の間には小さな沈黙が続いた。台所から響く包丁の音も、空元気のようで気まずい。
「わいはぁ……、がんたれ(ろくでなし)ん男んために、世話になった者たちをまた裏切っ気け!」
誠一は激憤のあまり、顔を真っ赤にして目を充血させ、拳をわなわなと震わせている。
あたかも阿像の形相に、澪は顔面蒼白になって胴震いした。子どもの頃に心配をかけて伯父に叱られたことはあっても、こんなに激しい怒りを経験したことがない。
「おとうさん、落ち着きたもんせ。澪は真希ちゃんじゃなかど」
「第一、なんじゃ、そん男は! 挨拶にも来じ、ひとん娘と同棲すっなど、非礼じゃらせんか!」
「だから、澪ちゃんの彼氏さんは外国に住んでいて──」
「わいは黙ってなせ!」
ヘイとなずなは亀のように首を引っ込めた。
「よかか、澪、今後一切、東京へ行っことはおいが許さん。わかったな!」
誠一は口から泡を飛ばして言い捨てると、座椅子を蹴って出てゆく。
次の瞬間には、家が潰れるかと思うほど派手な音を立て、玄関ドアが閉まった。
「さしかぶいに(久しぶりに)見たねぇ、おとうさんの雷」
窓を過ぎる自転車の影を目で追いながら、春子は呆れたように、なぜか少し嬉しそうに、呟いた。
「ごめんなさい、伯母さん」
春子は、いいのよと笑みを浮かべて首を振った。
「そいよりご飯にしもんそ。お腹空いたやろう?」
「でも……」
「だいじょ〜ぶ、びんたを冷やしたや戻ってくっで。ちょっと言いすぎてん、本人もわかっちょるんじゃ」
春子は澪の背中を叩いて、やれやれと暖簾を上げて台所へ戻ってゆく。
そしてまた茶の間には小さな沈黙が続いた。台所から響く包丁の音も、空元気のようで気まずい。