桜ふたたび 後編
くすくすと笑いが残った。しかしそれもすぐに溜息に変わった。

『どうしますか?』

レオが言った。ウィルがう〜んとうなり声を上げた。
ニコがンンとカルロスの真似をして、

『メルを誘拐しちゃおうか』

冗談めかして片眼を瞑った。

『いいわね』と、リンが真顔で賛成したので、男たちの方がぎょっとした。

『でも、なんでアランは、株の譲渡を持ちかけなかったんだろう? 売っただけじゃ、いくらでも買い戻せるのにな』

『彼の望みは、ジェイ自ら破滅への道を選択させることよ。つまり、男のケチな嫌がらせね。古代から男の嫉妬は女より陰湿だと言うけれど……』

情けないとばかりに、言葉尻に侮蔑が含まれていたので、男たちは苦笑った。

『ジェイは一度に大量のAX株を売れない。彼の大量売却が投資家に知られれば、マーケットインパクトを引き起こす。インサイダーと嫌疑を掛けられれば致命傷だ。だが売り尽くさなければ、澪は取り戻せない。ぐずぐずしている間にアランが逮捕されてしまえば、澪は殺される。ジェイは焦っている』

ウィルは奥歯を噛み締めた。

『いずれにしても、ジェイはJ&Aを解散する覚悟でしょうね』

『彼がその気になれば、会社など何度でも立てられます。三年、いや十年かかっても、私は彼の復活を待ちます。ただ、万一澪を失って、彼の気力が失せるのが問題でしょう』

レオの言葉にリンとウィルが肯いた。

『ボスもずいぶん人間臭くなっちゃったなぁ』

と、メンバーの中で唯一、澪と面識のないニコが、唇を尖らせた。
結婚式のときもレオと留守居を命じられた彼は、仲間はずれの不平をあからさまに滲ませていた。彼の未熟で飾り気のない表現は、伏魔殿に身を置くウィルたちには愛しく快い。

『ジェイにとって澪は運命の女神なのさ。そして僕らにとってもな』

『それなら何としてでも女神を奪還したいな。エマを動かす方法はないかな?』

『子どもを使いますか?』

レオが言った。

『できるか?』

『カールを連れて行きます』

勝算のある顔で、レオは微笑んだ。
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