桜ふたたび 後編
二人の大人と一人の少年は、メルを真ん中に一列になって、学校の煉瓦塀に背中を凭れた。
温暖冷涼なリールは、すでに晩秋から冬へ向かっていたが、日中の熱を充分吸収した塀に凭れていると、背中からぽかぽかと温まってくる。

レオは冷たくもない手を擦りあわせながら言った。

《やっぱりリールは寒いね》

《マルセーユは太陽がいっぱいあるんでしょう?》

レオは体を起こしてメルに向け、大きく目を開いてみせた。

《よく知ってるね。行ったことがあるの?》

《ぼくはないけど、パパが言ってた。お日様があったかくて海がすっごく青いんだって》

意外にもアランはいい父親らしい。

《そうか、パパは物知りなんだね》

感心して見せると、メルはうんと嬉しそうに返す。レオは再び塀に背を凭れ、

《おじさんは田舎から出たことがなかったから、知らないことばかりだよ。パリなんか人も車もいっぱいでびっくりしたなぁ。メルは行ったことがある?》

《へへ》

と、少しの優越感と照れを持って少年は鼻の下を指でなぞった。

《パリなんかしょっちゅうだよ》

《いいなぁ。ジョージアにも行ったんだったね。他にどんなところを旅行したの?》

《春休みと夏休みはニューヨーク。ママンのお仕事で行ったから、ぜんぜん遊べなくてつまらなかった。だから、代わりにラップランドに連れてってくれたんだ》

琥珀色の瞳が閃いた。しかし、焦りは禁物だ。
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