桜ふたたび 後編

《そろそろ行かなくちゃ。ねえメル、今日カールに会ったことはママンには内緒だよ》

《どうして？》

少年は不思議そうな顔をした。

《だって、ママンがカールに会いたいって言ったら、カールはいま聞いたことをうっかり喋ってしまうかもしれないよ。なあ、カール》

《オーロラ、カールも観たい》

無邪気なカールに、メルは口をアヒルのように尖らせて、

《カールはお喋りだからな》

大人たちから見れば殻に閉じこもったカールは、純真な子どもたちには屈託なく自己表現する。

《それじゃ、ママンに見つからないうちに帰るよ》

《ええ？　もう行っちゃうの？》

メルは泣きそうな顔をした。

《また、会えるよ。しっかり勉強するんだよ》

レオがメルの頭をぽんと手で叩くと、カールも真似して叩いた。

《アデュー、カール。アデュー、おじさん》

メルが大きく手を振って、車に乗り込むふたりを無垢な瞳で見送っている。
レオはわずかな罪悪感を押し消して、心の中でほくそ笑んだ。