桜ふたたび 後編
「ごめんね、澪ちゃん」

なずなは、しゅんと身を小さくしたまま、消え入りそうな声を出した。

「澪ちゃんが東京に行ってること、知らなくて……」

「わたしの方こそごめん。なずなちゃんは関係ないのに」

行き先を尋ねられたとき、なずなの所という伯母の早とちりを否定しなかった澪が悪い。恋人に会いに行くと本当のことが言えなかったのは、思春期の娘が親に対する気恥ずかしさやましさのようなものがあったからだ。
まさに獣食った報い。せっかくの帰省なのに、なずなもとんだとばっちりだった。

「でもどうする?」

「うん、どうしよう」

横目で見合った視線がぶつかって、ふたりは思わず吹き出した。
互いに寺の叱られ坊主のように、膝の上に両手を突っ張ったまま、正座を解くことも忘れていた。

「頼りないなぁ」

なずなは清々した顔で、両手を尻の後ろについて足を前に放り出した。

「まぁ、澪ちゃんがお父さんに自分の気持ちを言えただけで、一歩前進だよ。ね、駆け落ちしちゃう?」

「大げさねぇ」

若いのにずいぶん古くさいことを言う。
第一、同棲や結婚に親の承諾がいる歳でもないし、ましてや相手は伯父だ。

それでも、澪の心を引き留めるには、充分だった。
このまま彼と和解できぬまま、真壁の家を出るわけにはいかない。彼が愛情ゆえに反対していることを、澪はわかっていた。

「何とか伯父さんを説得してみる」

「お父さん頑固だよ。漁師だもん」

なずなは痺れた足をぎゅうっと握り、片眼を瞑って顔をしかめた。
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