桜ふたたび 後編
『医療機関?』

三人が声を揃えて聞き返した。

ウィルが閃いたように指を鳴らした。

『麻酔薬か』

『エマは動脈麻酔薬を注射する危険行為を、ためらいもなく正確に行っている。元医師だろう。他にも医療行為を行える仲間が複数いる。エマ・マイヤーは偽名だろうから、身体的特徴で医師登録の照合にかけたが、ユーロ圏内に該当する者は見つからなかった』

『ラップランドのアーシャ。30代から40代、女性。40歳前後の姉か妹に医師免許あり。髪はジンジャー、瞳はグリーン』

ニコが高速でキーボードを弾きはじめる。アランが関係当局に繋ぎをつけはじめる。リンがプライベートジェットのフライト準備をはじめる。その三十分後、

『残り十三人かぁ』

思わぬ苦戦に天然パーマをワシャワシャと掻くニコの前に、リンがそっと珈琲を差し出した。

『ちょっと一服しましょう』

ありがとうとカップを口に運びながらも、ニコはモニターから目を離さない。

『ローラー作戦でいくしかないか』

両腕を組んだウィルが諦め気味に言う。

『レオを先乗りさせますか?』

それまでひとり仕事を進めていたジェイは、リンの提言に書類から目を上げて、ゆっくりと瞬きをした。
一呼吸置いて、デスクを人差し指で弾きはじめる。その指先を三人は息を詰めて注視した。
< 250 / 271 >

この作品をシェア

pagetop