桜ふたたび 後編
メルはリビングのソファーに寝そべって、今日もゲームを楽しんでいた。
現在彼が最も気に入っているのは、「ゾンビの館」。館に囚われた王女を、続々と現れる敵ゾンビと戦いながら救出するというゲームだ。

第二ステージをクリアして、メルは大人びた態度で、ぽきぽきと指を鳴らす仕草をした。次は難関の第三ステージ。最強のゾンビたちが襲ってくる。

《来た!》

と、メルが声を上げたとき、ドアがバンと音を立てた。

《メル!》

エマがゾンビより恐ろしい形相で向かってくる。あっという間に画面の勇者も打ちのめされてしまった。

《宿題は終わったよ》

メルはソファーに座り直し肩を窄めた。

《学校で誰と会ったの?》

メルはあっと口を開け、恐る恐る母を見上げた。

《メル、怒らないから正直に言いなさい。あなたが校門で男と喋っているのを見た人がいるのよ》

怒らないと言いながら、すでに声が尖っている。
それでもメルは、これ以上の母の立腹を回避するために、先に小さな頭を下げた。

《ごめんなさい、ママン。ぼく、カールに会いました》

《嘘おっしゃい。カールがリールに来れるわけがないでしょう》

《嘘じゃないよ。マルセーユのおじさんと一緒に旅行してるって》

《何ですって?》

アランの電話を思い出し、エマは慌ててメルの前へ坐りこむと、邪魔だとばかりに床に散らかったおもちゃを払いのけ、息子の二の腕を掴んだ。
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