桜ふたたび 後編
澪は、ジェイが社会で何をしているのか、どんな評価を受けているのか、知らない。
いや、本当はわかっていた。
彼の成功の陰には踏みにじられた存在があることを。

〈勝ちすぎた者は、必ず負の感情を向けられる。この世で一番怖いのは、人間のおそれからくる妬心〉

涼子の言葉は人間社会の真実だ。

〈彼は常に勝ち続け、飛び続けなければなりません。羽を休めてしまったら、失速して墜ちてしまいます〉

そして、リンの言葉はジェイの真実だ。

『人の心を持たない男だから、あなたのことも見捨てるかもしれないわね。そのときには、子うさぎが死んでゆく映像をプレゼントしてあげるわ。己の選択が招いた結果だと、一生忘れられない後悔を味わえばいい』

キアラは澪の命を盾に、ジェイに復讐しようとしているのだ。
その前に、ここから脱出しなければ。

澪はリングの代わりに、ルナのペンダントを握りしめた。

──主よ、お守りください。

湖の対岸の森の上から、ダイヤモンドのような太陽が現れた。
澪は光彩にぎゅっと目を瞑った。
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