桜ふたたび 後編
〔やっぱり寝ているみたいですよ〕

病室は静まりかえっている。照明スイッチを入れたキアラは、目を剥いた。

〔いない!〕

室内は全て真っ白、隠れられる物入れどころか引き出しさえないのだ。

〔トイレじゃないですか?〕

キアラは乱暴にトイレのドアを開けた。澪の姿はない。

〔逃がしたわね〕

とんでもないとアイラはぶんぶんと首を振った。

特別室はカードキーがなければ内側からさえドアが開かない。窓ははめ殺しで面格子が付けられている。
ドアを振り返ったキアラははっとした。取っ手を持って力を加える。動くはずのないドアが静かにスライドした。

キアラは膝を着いて、どんな些細な異変も見逃すまいと、目と手で探った。
ドア枠のかみ合わせ部分に光るものがある。引き出して見ると、ダイヤモンドのペンダントトップだった。

きっとナースの隙を盗んで細工をしたのだ。睡眠薬などと油断させて、監視の目を緩めさせた。

この町の人間は、警察の必要もないほどのんきだから、日頃からオートロックが確実にかかったか確認するナースなど、一人もいないのだ。

〔くそ!〕

キアラは髪を膨らませて、病室を飛び出した。
< 258 / 271 >

この作品をシェア

pagetop