桜ふたたび 後編
ブーンブーンと耳鳴りのように遠くせわしく響く音に、澪は失っていた意識を取り戻した。
生きている。
右肩と腰に痛みがあるけれど、たいしたケガではなさそうだ。十メールは滑落したものの、幸いにも樹木に激突することもなく、雪のデブリで停止していた。
澪は肩を回し何とかやっと体を仰向けて、息を呑んだ。
空に緑色の透き通ったヴェールが吹き上がっている。
光は止まることなく黄緑や白や青に色を変え、姿を変え、まるで生き物のように天空を舞っている。その背後に新たなヴェールが生まれると、空に吸い込まれるようにフワッと消え、また次のヴェールが生まれては消える。
やがて緑の柱の上に赤い炎が沸き立ち、大きくうねりながら天頂近くまでひらめいて行った。
──ああ……。
あまりに美しく儚げな光景に、涙がこぼれた。
「ジェイ」
凍えた唇から呼んだ名は、白い息となって霧散した。
「澪!」
返ってくるはずのない声がする。
澪は震えの止まらない手で涙を拭って、立ち上がる努力をした。
──もう、動けない。
ブランケットを失った体は凍りつき、指先は紫色に腫れ上がり最早感覚さえ失われている。
震えは激しくなって、ただ涙だけが頬を伝った。
〝死〞という文字が浮かんだ。
生きている。
右肩と腰に痛みがあるけれど、たいしたケガではなさそうだ。十メールは滑落したものの、幸いにも樹木に激突することもなく、雪のデブリで停止していた。
澪は肩を回し何とかやっと体を仰向けて、息を呑んだ。
空に緑色の透き通ったヴェールが吹き上がっている。
光は止まることなく黄緑や白や青に色を変え、姿を変え、まるで生き物のように天空を舞っている。その背後に新たなヴェールが生まれると、空に吸い込まれるようにフワッと消え、また次のヴェールが生まれては消える。
やがて緑の柱の上に赤い炎が沸き立ち、大きくうねりながら天頂近くまでひらめいて行った。
──ああ……。
あまりに美しく儚げな光景に、涙がこぼれた。
「ジェイ」
凍えた唇から呼んだ名は、白い息となって霧散した。
「澪!」
返ってくるはずのない声がする。
澪は震えの止まらない手で涙を拭って、立ち上がる努力をした。
──もう、動けない。
ブランケットを失った体は凍りつき、指先は紫色に腫れ上がり最早感覚さえ失われている。
震えは激しくなって、ただ涙だけが頬を伝った。
〝死〞という文字が浮かんだ。