桜ふたたび 後編
澪は、虚ろな視線を空に向けた。
オーロラはますます激しさを増して、Ω字型のピンク色の羽衣に変わっている。死の女王が目の前に眠りの帷を降ろして行くようだ。

と、突然、森の上からヘリコプターが現れた。
黒い巨体はサーチライトを前後左右に振っている。強烈な光がスポットライトのように当たって、澪は目を瞑った。

──逃げなきゃ……。

もうろうとした意識のなかで、澪は最後の最後の力を振り絞って、雪渓を泳ぐように這った。

それなのに光は澪を捕らえて放さない。轟音は一層激しくなり、風圧で雪が砂嵐のように舞い上がった。音と恐怖で、澪は耳を塞いで屈み込んだ。

「──!」

頭の奥でジェイの声がする。

「澪!」

呼ばれているような気がして、澪は顔を上げた。

ホバリングしたヘリコプターのドアから、男が大きく身を乗り出して、必死に手を振っている。

「ジェイ」

澪は無我夢中で体を起こすと、両手を差し出した。

夢でもいい。幻覚でもいい。最後にもう一度だけ、ジェイの胸に抱かれたい。

澪は縋るようにふらふらと立ち上がった。
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