桜ふたたび 後編
ふいにスマートフォンの呼び出し音が浜辺に響き渡った。
ムードを壊された恋人たちの目から、一斉に銀色の光線が放たれたようで、澪は慌ててスマホを取り出した。

〈澪〉

油断していた。今、ジェイはニューヨークだ。こんな時間帯に連絡があることはない。すっかりなずなからだろうと、番号通知も確認していなかった。

〈いつまで待たせるつもりだ?〉

「ごめんなさい」

〈e-mailの返事も要領を得ないし〉

「ごめんなさい……」

澪は電話口で小さくなった。不誠実だと責められても仕方がない。

〈何かアクシデントがあったのか?〉

「それが……」

〈澪〉

たぶん出社前なのだろう。答えを急かされ澪は言いにくそうに言った。

「伯父が反対していて……」

〈なぜ?〉

「わたしの母が、枕崎を捨てて東京へ出て行ったとき、みんなに迷惑をかけたから……、わたしのことを心配しているんです」

〈それで? 澪はどうするつもり?〉

澪は自信なさげに首を傾げた。
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