桜ふたたび 後編
人生どこでどう狂うか──。
それはジェイへの皮肉も含まれている。
彼ともあろう者が、たかが失恋で喪心するとは。リンから聞かされたときには開いた口がふさがらなかった。

だが考えてみれば、ジェイも人の子なのだ。銃弾を受ければ赤い血が流れるし、愛を失えば心傷つく。
ウィルも本人さえも、ジャンルカ・アルフレックスという人間を、どこか神格化していたのかもしれない。

リンは言った。澪と初めて会ったとき、AXの禍になると予感したと。
それはある意味で正解だった。ジェイを一人の男に変えてしまったのだから。

そしてまた、彼を立ち直らせたのも、彼女なのだ。

澪の消息を調べろと、ジェイの妹からお門違いの指令を受けたリンが、柏木を紹介したその一週間も経たぬうちに、ジェイが戻ってきたことが、何よりの論拠だ。

『それで、その赤毛の女は、まだ見つからないの?』

ウィルは渋い顔をした。
レオの情報を元に、トミーが極秘に借りていたアトランタのコンドミニアムにウィルが乗り込んだときには、女は忽然と姿を消していた。一足遅かった。向こうが一枚上手だった。

『まあ、コンドミニアムを張っていた甲斐があって、役にも立たない実行犯は確保したが。結局、俺らはアランに踊らされたわけだ』

ウィルが自嘲的な皮肉を言ったので、今度はリンが厭な顔をした。

『あれは何をしているんだ?』

ジェイの質問に、ウィルとリンは上体をよじってリビングへ視線を振り向けた。
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