桜ふたたび 後編
ゆく夏へのレクイエムのように蜩が哀しげに啼いている。ちりんちりんとベルを鳴らして自転車が通り過ぎた。烏が高い声を上げながら、鎮守の森の巣へと帰ってゆく。

「京都ん方はどうすっつもりだ?」

「近々挨拶に伺います。まずは、真壁さんにお許しをいただいてからと思いまして」

誠一は小鼻を疼かせ、綻んだ口元を隠すように空のコップに口をつけた。それからおもむろに立ち上がると、客間の入口から台所に向かって大声を出した。

「おい、飯はまだか?」

「は~い、できちょっど」

誠一は肩越しに言った。

「喉が渇いて堪らん。あたも一杯付き合いもはんか?」
< 33 / 271 >

この作品をシェア

pagetop