桜ふたたび 後編
「ただいま」
迎えてくれるひとはいないとわかっていても、自分だけでも声を発していないと気がおかしくなりそうだ。
とたんに澪は目を瞠った。まるで歩きながら脱いで捨てたように、靴がてんでバラバラの方向に転がっている。
慌てて拾って玄関に揃え、喜び勇んでリビングのドアを開けると、
「どこへ行ってたんだ?」
ソファーから体を起こしたジェイは、なぜかむくれている。
「あ、あの、柏木さんに書類を届けに……」
「ふ~ん」と、座り直しながら面白くなさそうに、
「彼がここに取りに来ればいい」
勝手なことを言う。
柏木はジェイの部下ではないし、澪名義の米国の銀行口座開設やクレジットカードの契約やら諸々、澪にも真意がわからないジェイの個人的な用件を、ご厚意で助けてくださっているのに。
だいたい、ジェイの帰国も、さっき柏木から訊くまで、澪は報されていなかった。
「お帰りは明日って聞きましたけど?」
精一杯不平を述べたつもりなのに、ジェイには効かない。腕を伸ばして澪の手を取ると、膝の上にお姫様のように抱き乗せた。
「澪に会いたくて早く帰ってきたんだ」
また調子のいいことを言う。
迎えてくれるひとはいないとわかっていても、自分だけでも声を発していないと気がおかしくなりそうだ。
とたんに澪は目を瞠った。まるで歩きながら脱いで捨てたように、靴がてんでバラバラの方向に転がっている。
慌てて拾って玄関に揃え、喜び勇んでリビングのドアを開けると、
「どこへ行ってたんだ?」
ソファーから体を起こしたジェイは、なぜかむくれている。
「あ、あの、柏木さんに書類を届けに……」
「ふ~ん」と、座り直しながら面白くなさそうに、
「彼がここに取りに来ればいい」
勝手なことを言う。
柏木はジェイの部下ではないし、澪名義の米国の銀行口座開設やクレジットカードの契約やら諸々、澪にも真意がわからないジェイの個人的な用件を、ご厚意で助けてくださっているのに。
だいたい、ジェイの帰国も、さっき柏木から訊くまで、澪は報されていなかった。
「お帰りは明日って聞きましたけど?」
精一杯不平を述べたつもりなのに、ジェイには効かない。腕を伸ばして澪の手を取ると、膝の上にお姫様のように抱き乗せた。
「澪に会いたくて早く帰ってきたんだ」
また調子のいいことを言う。