桜ふたたび 後編
「ただいま」

「お帰りなさい」

それでもジェイの匂いを嗅ぐとほっとして、体の力も心の蟠りも解けてしまう。
いつにも増して性急なキスに頭がぼうっとして、どうやってソファーに寝かされたのかさえわからなかった。唇が首筋に落ちて、指が背中のホックを探し当てた。

──汗をかいたのに……。

これから営まれることに体を潤わした澪は、やにわに体の縛めが解けたのを感じて、きょとんと目を開けた。

ジェイは片足を床に降ろした四つんばいの格好で、澪をジッと見下ろしている。NGを出したAIのように、頭の中で何かを整理しているように見える。それから了解したとばかりにふうっと一息吐くと、いきなり立ち上がった。

「え?」

「出かけるから、これに着替えて」

目の前に差し出された高級ブランドの紙袋に、澪は嫌な予感がした。

「どこへ?」

「友人に金婚式のプレゼントを届ける」

澪は気乗りのしない顔を向けた。
逢いたかったからと言われてすごく嬉しかったのに、その用事のために一日早く戻ってきたのかと、何だか心が腐る。ただでさえ人混に気疲れして、再び出かける気分ではないのに。
第一、この火照ったカラダをどうしろというの?

恨めしげに立ち上がる澪に、ジェイは追い打ちをかけるように言った。

「エンゲージリングをつけて」

「ええ?」

「車を待たせているから、急いで」
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