桜ふたたび 後編
階段を上がってくる微かな足音を耳にして、ジェイは待ちくたびれた顔を上げた。
やれやれとタブレットPCをナイトテーブルへ片付け、舞台をチェックするようにシーツをならし、準備運動でもするように肩胛骨を大きく動かす。
いつものことながら、澪のバスタイムは長い。
いったい中で何をしているんだと、一度気になって覗き見したら、澪は肩まで湯につかり気持ちよさそうに鼻歌を歌っていた。
そんな風呂好きの彼女のために、広いバスルームを新居探しの条件に入れておいたが、やはり柏木はいい仕事をする。
澪の姿に、ジェイはいそいそとタオルケットの端を持ち上げた。それなのに、彼女はなぜか一瞥しただけで反対のドレッサーへ向かっていく。
「今日は機嫌が悪いね」
澪は鏡の前で別段何するでもなく黙座している。齋藤家から戻ってから、一言も口を開いていない。
予想以上にガゼボでの毒気がきつかったか。
薔薇の花影から垣間見たところ、テーブルを囲んでいたのは女性六名。なかなか華やかな雰囲気で、マダムに選抜されるくらいだから、いずれも強者揃いだろう。澪の狼狽ぶりが目に浮かぶ。
ジェイはしょうがないなと溜め息を吐くと、背後に忍び寄った。
「久しぶりに会えたのだから、笑って」
両頬をつまんで引っ張ってみたが、彼女は口を真一文字に結んで目も合わさない。かえって状況を悪化させたなと、ジェイは頭を掻いた。
やれやれとタブレットPCをナイトテーブルへ片付け、舞台をチェックするようにシーツをならし、準備運動でもするように肩胛骨を大きく動かす。
いつものことながら、澪のバスタイムは長い。
いったい中で何をしているんだと、一度気になって覗き見したら、澪は肩まで湯につかり気持ちよさそうに鼻歌を歌っていた。
そんな風呂好きの彼女のために、広いバスルームを新居探しの条件に入れておいたが、やはり柏木はいい仕事をする。
澪の姿に、ジェイはいそいそとタオルケットの端を持ち上げた。それなのに、彼女はなぜか一瞥しただけで反対のドレッサーへ向かっていく。
「今日は機嫌が悪いね」
澪は鏡の前で別段何するでもなく黙座している。齋藤家から戻ってから、一言も口を開いていない。
予想以上にガゼボでの毒気がきつかったか。
薔薇の花影から垣間見たところ、テーブルを囲んでいたのは女性六名。なかなか華やかな雰囲気で、マダムに選抜されるくらいだから、いずれも強者揃いだろう。澪の狼狽ぶりが目に浮かぶ。
ジェイはしょうがないなと溜め息を吐くと、背後に忍び寄った。
「久しぶりに会えたのだから、笑って」
両頬をつまんで引っ張ってみたが、彼女は口を真一文字に結んで目も合わさない。かえって状況を悪化させたなと、ジェイは頭を掻いた。