桜ふたたび 後編
「女優の朝倉涼子さんも、こちらで学ばれたことがあるんです。ご存知でしょう? フランスの大実業家とご結婚されて、今は芸能界を引退されてますけど」
嘴を挟んだのは董子だ。実家が日本橋の名料亭で、彼女自身は箱根で夫とオーベルジュを経営していると言っていた。
アシンメトリーなボブヘアからきれいな富士額が覗いている。ふっくらとしたおかめ顔で、優子と同い年と言うから三十代前半か。こちらは品の良いトラッド系。
「そのとき、マスコミに紹介されたせいで、入校希望者が押し寄せてしまって大変だったのですって。でも、サロンは少人数制をモットーとしていますし、きちんとした方からのご紹介がないと、誰でも入校できるというわけではないの」
優子の言葉に他の三人はその通りとにっこりと顔を傾けた。
「素養のない方は、入校されてもカリキュラムについてゆけず、辞められてしまうことが多いから」
人差し指と親指でカップを摘み持つ茉莉花の目が、あなたのことよと物申していた。
彼女とはガゼボで顔を合わせている。確か、父親は大手銀行役員、母親は料理研究家、自身はテーブルコーディネイターとして活躍している、とか何とか紹介された気がする。
大きくウェーブさせたセミロングの毛先だけ小さな縦巻きを作り、額をすっきりと見せ、きりっとした目に鼻筋の通ったシャープな輪郭は、これぞお嬢様。優子や董子より若いけれど、このグループではリーダーのようだ。
「でもぉ、いきなり上級クラスを受講されるなんてぇ、すごいですわ」
やや舌っ足らずな萌愛は、サロンの最年少で、ゆるふわのツイン三つ編み、小さく丸い瞳、肌はゆで卵を剥いたようにつるつるしていた。母親が有名エステティックサロンの社長で、彼女も一応役員らしい。
フリルやリボンが大好きなガーリー系だけど、何と毎回のようにサロンへ送迎する彼が違うのだと、自己紹介のとき優子が笑って補足してくれた。
「あの、初級クラスにも通っていますので」
「まぁ大変! 週二回もぉ?」
「それから金曜日もなんです」
萌愛が飲みかけのアイスティーを吹き出した。はしたないと茉莉花に睨まれ、慌ててレースのハンカチで口元を拭っている。
嘴を挟んだのは董子だ。実家が日本橋の名料亭で、彼女自身は箱根で夫とオーベルジュを経営していると言っていた。
アシンメトリーなボブヘアからきれいな富士額が覗いている。ふっくらとしたおかめ顔で、優子と同い年と言うから三十代前半か。こちらは品の良いトラッド系。
「そのとき、マスコミに紹介されたせいで、入校希望者が押し寄せてしまって大変だったのですって。でも、サロンは少人数制をモットーとしていますし、きちんとした方からのご紹介がないと、誰でも入校できるというわけではないの」
優子の言葉に他の三人はその通りとにっこりと顔を傾けた。
「素養のない方は、入校されてもカリキュラムについてゆけず、辞められてしまうことが多いから」
人差し指と親指でカップを摘み持つ茉莉花の目が、あなたのことよと物申していた。
彼女とはガゼボで顔を合わせている。確か、父親は大手銀行役員、母親は料理研究家、自身はテーブルコーディネイターとして活躍している、とか何とか紹介された気がする。
大きくウェーブさせたセミロングの毛先だけ小さな縦巻きを作り、額をすっきりと見せ、きりっとした目に鼻筋の通ったシャープな輪郭は、これぞお嬢様。優子や董子より若いけれど、このグループではリーダーのようだ。
「でもぉ、いきなり上級クラスを受講されるなんてぇ、すごいですわ」
やや舌っ足らずな萌愛は、サロンの最年少で、ゆるふわのツイン三つ編み、小さく丸い瞳、肌はゆで卵を剥いたようにつるつるしていた。母親が有名エステティックサロンの社長で、彼女も一応役員らしい。
フリルやリボンが大好きなガーリー系だけど、何と毎回のようにサロンへ送迎する彼が違うのだと、自己紹介のとき優子が笑って補足してくれた。
「あの、初級クラスにも通っていますので」
「まぁ大変! 週二回もぉ?」
「それから金曜日もなんです」
萌愛が飲みかけのアイスティーを吹き出した。はしたないと茉莉花に睨まれ、慌ててレースのハンカチで口元を拭っている。