桜ふたたび 後編
リンは聞いて損したと、頬に苦笑いを走らせて座り直した。
家族サービスもいいが、この非常時に子どもの遊びに興じていたとは、楽観的すぎる。

レオはリンの心を読んだかのように微苦笑し返すと、猫のような身のこなしで彼女の向かいに腰を降ろした。

色鮮やかな花々と青い空と海をバックに、陽焼けした彼はみごとに町に溶け込んでいる。海よりの風にヘアスタイルの乱れを気にするのは、生粋のパリジャンのプライドなのか、それとも寂しくなった髪への愛着なのか……。

『それが驚くことに、彼は百発百中なんです』

『なんだ、マジックか』

『サイキックかスピリチュアルかもしれません』

『何かトリックがあるんだろう? 新しいカードを使えよ』

バカバカしい、とウィルは目で言った。

『私もカードに疵や癖があるのかと思って、先刻、新しいものを六組、買ってきたのです。それでも彼は、みごとに312枚の数字を言い当てました』

リンが何度も瞬きをして『まさか……』と呟いた。

アイスドールと呼ばれる女が、実はゴーストや妖精の存在を信じていることを、ウィルは知っている。

『レオ、彼をここに』

リンとウィルは訝しげに目を見合わせた。

一体、あの犯罪者を、ジェイはどうしようと言うのだろうか。
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