桜ふたたび 後編
「ご婚約者は外国の方でしょう? 先日マダムのパーティーにご一緒していた」

さらっと優子が話題を逸らしてくれた。

「マダムとお親しいご様子だったとお聞きしたけど、オーストリアの方?」

「いえ、今はニューヨークに」

「ああ、それでぇ」

萌愛が声を弾ませた。

「エンゲージリングは○リーウィンストンのペアシェイプ・クラシックなんですってぇ。今日はしてらっしゃらないのぉ? あ、でもぉ、その○ルガリのメテオーラも素敵ですぅ」

そんなところまでチェックして、澪も知らない商品名まで言い当てるなんて、なんておそろしいひとたちだろう。

「何をなさっている方?」

茉莉花の鋭い横やりに、澪はおどおどと答えた。

「会社員……?」

「まぁ! 澪さんってユニークな方なのねぇ」

下手なジョークにでも聞こえたのか、茉莉花以外はみな、口元へ手をやって上品な笑い声を立てている。

ジェイは部長に降格したから、間違ってはいないと思う。
それも伯父との会話で聞き知ったことで、実は澪はジェイの仕事についてよく識らない。彼はビジネスに係る話は一切しないし、電話での会話は英語で暗号のような専門用語ばかりだからちんぷんかんぷんだ。解説などされても困るだけだけど……。

「どちらの企業にお勤めなの?」

茉莉花の追求に、和やかな笑顔の輪が崩れた。

どうしよう。AXの名を出して、ジェイに迷惑がかからないだろうか? 彼自身、社名を他言しないし、イタリアでは澪がアルフレックス家の関係者だと外に漏れることを、とても厭がっていた。

「もちろん、一流企業なのでしょう? 金融関係? それともIT関連?」

茉莉花は引き下がらない。優子たちは茉莉花の執念にドン引いている。

「ずいぶんと秘密主義なのね」

茉莉花はますますムキになる。

「いえ、あの……」

「澪さん?」

肩の上から横顔を覗き込まれて、澪は仰け反った。近すぎる顔がにこりと笑った。
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