桜ふたたび 後編
「こんにちは、辻です」
「ツジ・さん?」
「インテリアコーディネータのツ・ジ・ト・キ・ム・ネ、お忘れですか?」
「あ、ああ……」
何となく思い出したという顔に、辻は不合格の烙印を押されたかのように大げさに肩を落とした。
「ショックだなぁ、俺ってそんなに印象薄い?」
澪は慌てた。ツーブロックのソフトモヒカンとあご髭にスリムスーツ、ホストに知り合いはいないと、頭から否定していた。
そうそう、柏木の紹介で、マンションで一度打ち合わせをした。あのがらんどうだった部屋を一週間でモデルルームにした張本人だ。あのときは確か、丸メガネをかけたスポーツミックス系のファッションだった。
「すみません、お洋服の感じが違ったので……、あの、その節はお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ。泉岳寺にはもう引っ越しされたのですか?」
「はい」
「あの彼も一緒?」
おぞましそうに首を引っ込める辻に、澪は苦笑した。
ジェイがプロの仕事に対して厳しいのは常のことだけど、彼に対しては殊に居丈高だった。
彼がまた悪たれるものだから、柏木が仲裁に入ったほどだ。何がジェイの気に障ったのかは不明。
「あの日は少し虫の居所が悪かったみたいで、すみませんでした」
辻はフンと鼻を鳴らし、それから思い出したように営業スマイルで言った。
「ちょうどよかった、依頼されていた件で相談があるんです。オフィス、この近くなんで、時間があったら見ていただきたいんですが、いいですか?」
「え? はい」
ジェイがまた無茶を言って辻を困らせているのかもしれない。変なところで根に持つから。
澪は興味津々に見つめている四人に向き直った。
「すみません。今日はこれで失礼させていただきます」
詮索の目に一礼して、澪は軽やかな足取りで辻のあとに従った。
「ツジ・さん?」
「インテリアコーディネータのツ・ジ・ト・キ・ム・ネ、お忘れですか?」
「あ、ああ……」
何となく思い出したという顔に、辻は不合格の烙印を押されたかのように大げさに肩を落とした。
「ショックだなぁ、俺ってそんなに印象薄い?」
澪は慌てた。ツーブロックのソフトモヒカンとあご髭にスリムスーツ、ホストに知り合いはいないと、頭から否定していた。
そうそう、柏木の紹介で、マンションで一度打ち合わせをした。あのがらんどうだった部屋を一週間でモデルルームにした張本人だ。あのときは確か、丸メガネをかけたスポーツミックス系のファッションだった。
「すみません、お洋服の感じが違ったので……、あの、その節はお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ。泉岳寺にはもう引っ越しされたのですか?」
「はい」
「あの彼も一緒?」
おぞましそうに首を引っ込める辻に、澪は苦笑した。
ジェイがプロの仕事に対して厳しいのは常のことだけど、彼に対しては殊に居丈高だった。
彼がまた悪たれるものだから、柏木が仲裁に入ったほどだ。何がジェイの気に障ったのかは不明。
「あの日は少し虫の居所が悪かったみたいで、すみませんでした」
辻はフンと鼻を鳴らし、それから思い出したように営業スマイルで言った。
「ちょうどよかった、依頼されていた件で相談があるんです。オフィス、この近くなんで、時間があったら見ていただきたいんですが、いいですか?」
「え? はい」
ジェイがまた無茶を言って辻を困らせているのかもしれない。変なところで根に持つから。
澪は興味津々に見つめている四人に向き直った。
「すみません。今日はこれで失礼させていただきます」
詮索の目に一礼して、澪は軽やかな足取りで辻のあとに従った。