桜ふたたび 後編

美術館から一歩外へ出ると、ムァとした熱気が汗を誘った。街路樹の葉を揺らす風もなく、コンクリートとアスファルトの放射熱で、街は陽が傾いても不愉快なほど暑い。堪らないとジャケットを脱ぐ辻に、澪は苦行から開放してくれたお礼を言いたい気分だった。

「あの、ご相談って？」

思わず声も弾む。

「ああ、あれ？　嘘」

驚く澪に、辻はジャケットを肩に背負い平然と言った。

「だって、早く出たそうにしてたじゃん」

本音を突かれ、澪はたちまち気まずく下向いた。

「友達？」

「え？　はい……」

一旦上げた視線をすぐにまた落として答える澪に、辻はつまらなさそうに空を仰いだ。取って付けたような雲が一塊、どっちつかずに浮いている。

「へぇ～、俺はまた、何かの罰ゲームかと思った」

澪は小さく笑った。

「そうそう、その方が君らしい。間違っても、フォトジェニックな作り笑いなんてしないでよ、胸くそ悪いからさ」

澪は頬に手をやった。確かに頬の筋肉がこっている。

「あいつの趣味？」

「？」