桜ふたたび 後編
程よい室温に調節されたダイニングに、カモミールティーの香りが漂っている。
テキストの文字を目で追いながら、澪の意識は遠のいていった。
──あのとき、リンは車で待っていたんだ。
一旦切れたコールは、数分後再び鳴った。それでもジェイの暴走は止まらない。
──仕方ないな、散々意地悪しちゃったし。
結婚、結婚と、ジェイは意欲的に言うけれど、彼の結婚観が澪には理解できない。
〈互いに協調し合って幸せな生活を模索してゆきたい〉と伯父に宣言したのに、ライフスタイルや将来のアウトラインについて何の話し合いもされず、ただ澪だけが振り回されている。結婚はできないと言い出すタイミングすら与えてくれない。
だから、不服を訴えるためセックスを質にとった。だけど肝心なところで情にほだされて、クーデターは失敗に終わってしまった。
彼に抱かれると赦してしまう自分がほとほと情けない。結局、セックスの虜になっているのは、澪の方なのか。
「澪さん?」
うつらうつらした脳に低音ボイスが響いて、澪は慌てて傾いた体勢を立て直した。
「疲れましたか?」
「あ、いいえ、すみません、だいじょうぶです」
背筋を伸ばしてみせる澪に、條辺葵は薄く形の良い唇の口角を、フッと上げた。
中性的な顔立ちで、細くスラリと手足が長い。ハンサムショートにいつもスマートなパンツスタイルなので、初めて会ったときの印象は〝タカラジェンヌみたい〞。
「少し休憩しましょう」
「いえ、ほんとうに、すみません、ちょっと寝不足で」
「あれ──、ですか?」
リビングのセンターテーブルにきれいに山積みされた雑誌に目を向け、葵は席を立った。
テキストの文字を目で追いながら、澪の意識は遠のいていった。
──あのとき、リンは車で待っていたんだ。
一旦切れたコールは、数分後再び鳴った。それでもジェイの暴走は止まらない。
──仕方ないな、散々意地悪しちゃったし。
結婚、結婚と、ジェイは意欲的に言うけれど、彼の結婚観が澪には理解できない。
〈互いに協調し合って幸せな生活を模索してゆきたい〉と伯父に宣言したのに、ライフスタイルや将来のアウトラインについて何の話し合いもされず、ただ澪だけが振り回されている。結婚はできないと言い出すタイミングすら与えてくれない。
だから、不服を訴えるためセックスを質にとった。だけど肝心なところで情にほだされて、クーデターは失敗に終わってしまった。
彼に抱かれると赦してしまう自分がほとほと情けない。結局、セックスの虜になっているのは、澪の方なのか。
「澪さん?」
うつらうつらした脳に低音ボイスが響いて、澪は慌てて傾いた体勢を立て直した。
「疲れましたか?」
「あ、いいえ、すみません、だいじょうぶです」
背筋を伸ばしてみせる澪に、條辺葵は薄く形の良い唇の口角を、フッと上げた。
中性的な顔立ちで、細くスラリと手足が長い。ハンサムショートにいつもスマートなパンツスタイルなので、初めて会ったときの印象は〝タカラジェンヌみたい〞。
「少し休憩しましょう」
「いえ、ほんとうに、すみません、ちょっと寝不足で」
「あれ──、ですか?」
リビングのセンターテーブルにきれいに山積みされた雑誌に目を向け、葵は席を立った。