桜ふたたび 後編
──誰のせいでこうなったと思うてるの。
あのとき、もっとも残酷な方法で澪に罰を与えたはずだったのに、自分だけが廻りから背を向けられた。
反対に、澪はますますきれいになって、その上、何事もなかったかのようにステップアップした男と幸せを掴んでいたなんて、こんな不公平なことがあるだろうか。
本当はわかっている。不妊の原因を夫になすりつけたときからもう何かが狂ってしまっていたのだと。
それでも何とか元の道に戻ろうと、密かに辛い不妊治療を続けていたのに、澪がすべてを台無しにした。彼女が妊娠などしなければ、女としての自尊心を惨めに踏み躙られることはなかったのだ。
〈サエちゃん、なんであんなすぐバレるような嘘ついたん〉
〈そのときは、流産したとでも言うわ〉
〈そんな嘘、ひととして許されへんよ〉
〈そんなら、あんたが代わりに宗佑の子を作ってくれたらええやん〉
妹の夫に対する気持ちを知りながら、優越感さえもっていた自分は不遜だ。その一言で妹からは敬遠され、最愛の父からも見限られた。
そのうえ、愛人にまだ未練を残す夫を引き留めようと、もう一度包丁を握ったけれど、それがまさかの大ごとになってしまい、結果は、醜聞として世間に知られ、同情どころか身内からの軽蔑をかっただけだった。
一つの嘘が、嘘を重ねさせ、戻れないところへと追いつめる。はじめの嘘で非を認めていれば、大切な人たちを失うことはなかったのに。
そうさせた元凶を澪と憎まなければ、己の核から崩壊してしまう。
「そう、よろしいわねぇ、若い人は。あんなことをしでかしておいて、平気な顔で何遍もやり直しができるやなんて」
あのとき、もっとも残酷な方法で澪に罰を与えたはずだったのに、自分だけが廻りから背を向けられた。
反対に、澪はますますきれいになって、その上、何事もなかったかのようにステップアップした男と幸せを掴んでいたなんて、こんな不公平なことがあるだろうか。
本当はわかっている。不妊の原因を夫になすりつけたときからもう何かが狂ってしまっていたのだと。
それでも何とか元の道に戻ろうと、密かに辛い不妊治療を続けていたのに、澪がすべてを台無しにした。彼女が妊娠などしなければ、女としての自尊心を惨めに踏み躙られることはなかったのだ。
〈サエちゃん、なんであんなすぐバレるような嘘ついたん〉
〈そのときは、流産したとでも言うわ〉
〈そんな嘘、ひととして許されへんよ〉
〈そんなら、あんたが代わりに宗佑の子を作ってくれたらええやん〉
妹の夫に対する気持ちを知りながら、優越感さえもっていた自分は不遜だ。その一言で妹からは敬遠され、最愛の父からも見限られた。
そのうえ、愛人にまだ未練を残す夫を引き留めようと、もう一度包丁を握ったけれど、それがまさかの大ごとになってしまい、結果は、醜聞として世間に知られ、同情どころか身内からの軽蔑をかっただけだった。
一つの嘘が、嘘を重ねさせ、戻れないところへと追いつめる。はじめの嘘で非を認めていれば、大切な人たちを失うことはなかったのに。
そうさせた元凶を澪と憎まなければ、己の核から崩壊してしまう。
「そう、よろしいわねぇ、若い人は。あんなことをしでかしておいて、平気な顔で何遍もやり直しができるやなんて」